2024/12/16 和田春樹 第7回シンポジウムにての報告

  2024年12月16日 「ウクライナ戦争を止める時がきた」

                                                                                                            和田春樹

  

  米国大統領選挙戦にトランプ氏が圧倒的な勝利を収めた。アメリカの国民は、自分が当選すれば、大統領に就任するまでにウクライナ戦争をとめてみせると言いきったトランプ氏を支持し、勝利させたのである。昨年5月の広島サミットに集まった世界各国の首脳にウクライナ戦争の停戦をよびかけ、“Ceasefire Now”、“Now War  in Our Region”を訴えた私たちは、このアメリカ国民の決断を歓迎する。

 

 米国バイデン大統領は2022年3月27日ワルシャワで演説し、ウクライナ戦争がハンガリー事件からはじまった専制主義勢力対民主主義勢力の戦闘の再版の延長線であり、米国はこの闘争に長期間身を投じると宣言した。翌月オースチン国防長官はウクライナに入り、「ロシアがウクライナ侵攻のようなことをできない程度に弱体化する」ことが自分たちの戦争目的であることを明らかにした。もとよりウクライナが防衛戦争の主役であることはたしかだが、米国はその戦争を情報、兵器、資金、広報の面で支援する最大の准参戦国となったのである。その米国の戦争大統領の副大統領を打ち負かして、戦争をとめるというトランプ氏が大統領に当選したことは決定的な事件である。トランプ氏はすでにこの戦争で多数のロシア人、ウクライナ人が死んでいる、これ以上死者をふやしてはならないと非常に正しいことを言っている。

 そうであればこそ、トランプ大統領は何が何でもウクライナ停戦を実現するために努力するであろう。そのためにトランプ大統領がやれることはウクライナへの武器援助、情報面での援助、財政援助を漸減させ、ウクライナをロシアとの停戦会談に誘導することである。とすれば、平和を願う諸国民はトランプ大統領を助けなければならない。とくに平和国家にして、米国の同盟国である日本は協力すべきである。

 

 すでにトランプ氏は元陸軍中将のキース・ケロッグ氏をウクライナ特使に起用して、ウクライナ戦争停戦問題にあたらせようとしている。ケロッグ氏は、現在の戦線で停戦させ、ウクライナのNATO早期加盟には否定的だと報道されている。

 停戦会談は戦場で兵士を出して戦っているロシアとウクライナが開かなければならない。そこでまっさきに協議されるのは、軍事境界線、停戦ラインをどこにするかである。ロシアはすでに併合を主張しているウクライナ4州の外に境界線を引くことを主張するであろう。ウクライナは1991年の独立時の国境線を主張するであろうが、現実的には、4州のうち一州でも取り戻せるかどうか、現在の対峙線を前提に支配地域の交換分合をはかれるか、が問題になるであろう。さらにロシアがウクライナの中立を停戦の条件にしてくる場合には、この点が深刻な交渉の的にならざるをえないのである。

 

 そして軍事境界線が決まったとすると、その両側に停戦監視部隊がおくりこまれなければならない。その部隊はウクライナ戦争に関与していない中立国から出されなければならない。そうなると、この協議はロシアとウクライナだけでは完成できない。交渉仲介国が参加しなければならない。すでに開戦直後の停戦交渉ではトルコの仲介が重要な役割を果たした。日本の歴史家グループは開戦直後から、日本、中国、インドの三国が停戦の仲介に立つように希望した。その後、中国、アフリカ連合諸国、ブラジル、インドも仲介を申し出た。米国は准参戦国であってみれば、背後でロシアとウクライナに直接はたらきかけることはできても、停戦会談の仲介国にはなれない。だから、あらためて、日本のような国が中国、インドと停戦会談の仲介国になるということが現実的に必要になっていると考える。日本はG7の一員であるが、日本のウクライナへの援助は戦闘用の兵器を含んでいない。ウクライナとはグローバル・パートナーシップを結んでいるので、停戦交渉の中でウクライナの利益を充分に考慮するように主張できる立場にある。

 ウクライナの窮状に深く同情するが、これ以上戦争をつづけても、ロシアに勝利することはできない。これ以上ウクライナ人とロシア人、それにおびただしい数の傭兵たちを殺させるのは許されないのだ。ウクライナ戦争をここで停戦させることが最善の道なのである。

 

 東北アジアにおける米国の同盟国の中で、新しい政治指導者をえらんだ日本はトランプ大統領に協力することができる。すでに石破内閣の岩屋外相がキーフを訪問した。石破首相はトランプ大統領に協力し、ウクライナ・ロシアの停戦会談実現のための外交に乗り出すべきである。すでに動き始めている中国、インドと話し合って、もう一つの停戦促進の流れをつくることができる。

 停戦会談で合意ができ、停戦監視の機構ができれば、さらに大きくウクライナ戦争に関わった国々が集まって、平和体制、安全保障の体制を協議する国際会議がひらかれなければならない。戦争犯罪の処分はどうなるのか。ウクライナの復興費用を誰が負担するのか。どうしたら欧米諸国はロシアに対する制裁を解除するのか。NATOとロシア陣営の平和共存を約束するにはどうするか。この局面でも停戦会談仲裁国の役割はますます重要である。 

 ウクライナ戦争が停戦できたら、世界の力と知恵を結集して、中東戦争を終わらせるのにかかることができる。プーチン大統領もトランプ大統領もそのために働くべきだ。石破内閣はこの方面にも貢献することができる。

 ウクライナ戦争にロシアはアジア地域からも、ネパールやスリランカから傭兵をあつめたことが知られているが、最終段階になって北朝鮮からも兵士の派遣をうけたということが盛んに語られた。今日まで、ロシアと北朝鮮から正式の発表、確認はない。このことを強く言い立てたのはウクライナのゼレンスキー政権と韓国の尹政権だった。ゼレンスキー政権としては、戦争が国際化しているのだから、戦争をもっと国際的に支援して欲しいと言い立てたのである。尹政権の方は自分の政権が弱体化しているので、北朝鮮かの脅威を言い立てて、戒厳令を出す下準備をしたものと思われる。北朝鮮の参戦が裏付けられないうちにお粗末なクーデターもどきの騒動で自滅した。韓国国民と軍隊は落ち着いて事態に対処して、みごとに民主主義をまもった。尹政権が終われば、東北アジアの平和を守るための日韓協力体制を一層充実させることができる。この面でも石破内閣はなしうることは多い。

 ロシアの兵士たちも一日も早く家に帰るべきときである。「パラー・ダモーイ」といえば、ロシア語で「家に帰るときだ」という意味である。そう叫んで、カチューシャの歌を歌っている母たち、妻たちの声がロシア中に高まっていると信じている。朝鮮人の若い兵士たちも国に帰して欲しい。「パラー・ダモーイ」はウクライナ語ではどうなるのか、不学にして知らないが、「家に帰るときだ」の声を一番大きくあげているのはウクライナ人の母たち、妻たち、そして夫たちであろう。